学校がディエプさんに送った「請求書」／（撮影）出井康博

【水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇】

 　仙台市の日本語学校に入学が決まったベトナム人女性のディエプさん（36）は2020年3月、初年度分の学費など総額122万8700円を支払った。彼女には、15年から18年にかけて実習生として働いた時の貯金が230万円ほどあり、それを使ったのだ。

元実習生の留学に高いハードル…「技能移転」と「経歴詐称」が足枷に

　学校がディエプさんに送った「請求書」（写真）を見ると、初年度分の学費62万円を筆頭に、内訳が細かく書いてある。入学金が6万5000円、在学中に受ける日本留学試験受験料3回分の前払いに4万5200円、自転車保険料が2万5500円といった具合だ。

■入学金や学費のほかに30万円の「保証金」を徴収

　その中に、気になる項目がある。「保証金」と称して30万円が請求されているのだ。＜在学期間中に問題がなく、大学進学が確定したら返金します＞との注釈がある。

　これまで私は多くの留学生を取材してきたが、入学時に大学進学を条件に「保証金」を徴収する学校など聞いたことがない。ディエプさんは疑問を抱かなかったのか。 「もちろん、変だと思いました。でも、私のような元実習生が入学できる日本語学校はなかなか見つからない。だから保証金も支払うことにしたんです」

　ディエプさんが進学を希望していたのは、大学ではなく介護の専門学校だ。そのことはベトナムで学校理事長と面接した際に話し、納得してもらったのだという。つまり、介護専門校に進学すれば、保証金も戻ってくると考えていたわけだ。ディエプさんが続ける。

「留学生全員から保証金を取っていたのなら、まだわかります。だけど中国人学生とかには請求していない。ベトナム人に対する差別ですよ」

　保証金の徴収について入管庁在留管理支援部にたずねると、こんな回答があった。

＜大学に進学しなければ徴収した保証金が返還されない旨の契約は適当ではないものと考えられ、日本語教育機関の告示基準に関わらず問題のある行為であると考えます＞

　入管庁が＜告示基準に関わらず＞と答えているのは、同基準でも想定していなかった違反行為だと認めているわけだ。しかも保証金に関し、学校は留学生を国籍で差別している疑いもある。

　学費などを納めた後、ディエプさんは20年4月に入学するはずだった。だが、新型コロナ感染拡大の影響で、来日できなくなってしまう。

　約123万円もの大金を支払った彼女からすれば、まさに一大事である。悶々とした日々をベトナムで送っていると、10月になって学校の現地エージェントを務めるベトナム人から1通のメールが届いた。同じ学校に入学するベトナム人数人に対し、一斉に送られたメールである。

　そのメールを開いて彼女は驚いた。300万円の「賠償金」について書かれた「誓約書」が添付されていたからだ。　

（出井康博／ジャーナリスト）