「考える時間・批判力・精神的余裕」を奪われる若者たち

原発被害とコロナ被害

  
「考える時間・批判力・精神的余裕」を奪われる若者たち
 地域に根ざした「土着社会主義」の構想を
 元京都大学原子炉実験所助教 小出裕章さんに聞く

◎「考える時間・批判力・精神的余裕」を奪われる若者たち

米国のような覇権国の中にあっても、貧困な人々がクラスターを形成
し、感染して死んでいます。
日本も同様です。「三密を避けよう」と言われても、避けようのない生
活を強いられている住居環境の中にいる人々もたくさんいます。
テレワークなどできようもない職場で働く現場労働者もいます。
非正規労働者に至っては、仕事そのものがなくなっています。

「ステイホーム」と言われても、安倍さんのように優雅にワインやお茶
を飲むことができる人なんて、たくさんいるわけではありません。
働かなければ生活が壊れてしまうのです。
飲食店が閉まると、アルバイトがなくなって学費も払えない学生もいます。
政府は、そんなことにはお構いなしで、必要な人々への支援の手は全く
届いていません。
そもそも「自粛要請」という言葉も間違っています。
「自粛」とは「自ら進んでやる」ことです。
政府が「仕事を休め」というのなら、その補償をしなければなりません。
「アベノマスク」にしても、数百億円もの税金を使いながら何の役にも
立たない人気取りの愚策でした。

「編」…小出さんは、未来構想として自然と寄り添う『地域循環型社会』
を提唱しています。
しかし未来は「今・ここ」のなかにはらまれていなければ夢物語になり
ます。小出さんが注目している地域実践や社会運動とは?

◎小出:日本はかつて地域循環型社会でした。ところが、ここ約100年の間
にことごとく破壊されました。
原発立地地域はその典型です。「海さえあれば生きていける」と思って
た人も大勢いたのですが、次々とやられていき、17地域に57基の原発が建
設されました。
しかし一方で、原発を拒否した地域も全国で30数カ所あります。これら
の地域では、困難を抱えながらも自然とうまく付き合いながら自分たちら
しい生活を目指しています。

今必要なことは政権を変えることだと思いますが、安倍さんにせよ菅さ
んにせよ、支持率が5割を超えています。
日本社会全体が「今だけ、金だけ、俺だけ」になっているのかもしれま
せん。
「生きる」ことに汲々とさせられて、未来を構想する余裕が与えられて
いません。

特に若い非正規労働者は、少しでもバイト代が上がってほしい、そのた
めに安倍さんが経済対策をしてくれるのならそれでいい。10万円くれるの
ならそれでいい。考える時間と精神的余裕がなく、批判力を奪われていっ
てるのではないでしょうか。
ただし、私がこんなことを言えるのは、助教という教育職としては最底
辺であったとしても正規職として働き、年金をもらえているからです。日
本で生きる多くの若者たちは、そういう当たり前の生活が保証されていな
いのです。まずは「もうイヤだ」という声を上げてほしいと思います。

◎地域に根ざした「土着社会主義」の構想を

そして私が構想する「地域循環型社会」とは、単なる経済の仕組みでは
なく、時間の使い方や生き方そのものを変えていくための未来構想だと思
っています。「自然との共生に基本を置く生活」です。

それを担保する仕組みとして、「自立する地域社会」、言いかえれば地
域内で食、エネルギー、ケア(世話、相互扶助)を基本的に自給する「地
域循環型社会」です。競争や効率を優先するのではなく、支え合って生活
できるような地域を新しく作らないといけないと思います。

労働運動では、小さな生コン業者がお互いに手を取り合って大企業と戦
うといった生産協同組合を組織してきた関西生コンのような労働組合もあ
ります。
そういう戦いは歴史を貫いて存在し続けているのです。
かつて原発を拒否した女川でも、地域循環型社会が呼びかけられています。

ソ連・東欧型社会主義は大きな過ちを犯しましたが、かといって資本主
義や新自由主義が正しいわけでもありません。

これらに代わる社会構想として、生産協同組合、消費者協同組合や、労
働者協同組合を組み合わせて、「土着社会主義」という地域に根差した地
域循環型の社会を作り出そうという呼びかけです。
いまだ実現しているわけではありませんが、現状に絶望せず、運動を続
けている人たちもいます。希望を失わず、地域実践を続けたいと思います。

カテゴリー: その他 パーマリンク