羽田新ルート 直下の東京3区の争点に 見直し案も候補者に温度差<衆院選2021>
2021年10月26日 06時00分
今回の衆院選は、昨年3月末に東京都心を低空で飛ぶ羽田空港の新飛行ルートが運用されて以来、初の国政選挙になる。東京3区の品川区では、東京タワーよりも低い高度300メートルで航空機が飛び、住民が騒音被害や落下物の危険性を訴え続けている。選挙戦では、3人の候補者全員が見直しを掲げるが、内容に温度差も見られる。(宮本隆康)
「区民は1回も意見を言う機会がなかったのに、同意を得たと強弁するのが今の国の体質。新ルート見直しは、品川区で庶民の声を政治に反映させるリトマス試験紙だ」
衆院選公示3日前の今月16日、新ルート直下のJR大井町駅前のホール。立民前職の松原仁さんは、決起集会で声を張り上げた。
松原さんは公約に従来の飛行ルートへの変更を掲げる。超党派の野党議員らの新ルート反対議連で事務局長を務め、住民団体「羽田問題解決プロジェクト」の支援も受ける。
共産新人の香西克介さんも同様に、新ルート中止を訴える。大井町駅前の街頭演説では「外国人観光客を増やすために始めたが、コロナ禍で外国人はほとんど乗っていないし、五輪も無観客。新ルートは必要ないことが明らかになった」とマイクを握り締めた。
与党の自民前職の石原宏高さんも出陣式で、見直しを公約とするチラシを配った。内容は「航空需要回復まで、新ルートの回避の検討」だった。
「航空需要回復まで」の条件に対し、自民区議は「私らも見た時は『えっ』と思った。区議会全体で反対しているし(党内は国と区が)ねじれるギリギリの状態」と打ち明け、こう強調する。「野党は反対、反対と言うが、私たちだって現実的な見直し案を模索している。誰でも頭上を航空機が飛ぶのは嫌だが、国策と理解してくれる人もいる」
選挙戦への影響について、松原陣営では「支持党派に関係なく切実な問題」と得票につながることを期待する。一方、石原陣営の関係者は「直下に住んでいない住民には関係ない」と影響を限定的とみる。
安倍政権下での新ルート導入は、首相官邸幹部が、慎重な国交省幹部を押し切ったとみられる。運用開始の直後から苦情が殺到し、約3カ月後に国交省は、将来的な見直しを検討する有識者会議を設置。しかし、導入1年半がたってもルート変更は見通せていない。
品川区南大井に住む男性(70)は「開始3カ月で見直しの検討をするなら、運用前にしっかり検討すればいいのに。直下の住民には一番の切実な問題で、この1年半にどれだけ関わってきたかを見て、投票する候補者を決める」と話した。
羽田空港への都心飛行ルート さいたま市付近から南下し、東京都心の新宿や品川を経て羽田空港に向かう。南風時、午後3~7時のうち3時間程度で運用。1時間当たり最大44機の着陸機が飛び、1日の発着枠を50便増やせる。「窓を開けた地下鉄並みの騒音や、落下物の恐れで生活が脅かされる」として、運用停止を求める訴訟が始まっている。