ディエプさんの入学許可書（撮影）出井康博

【水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇】#23 　ベトナム人のディエプさん（36）は、日本で介護の仕事に就くことを夢見た。そのためにまず日本語学校に留学し、介護専門校へ進学しようと考えた。だが、留学には障害があった。以前、彼女が実習生として来日した際の「経歴詐称」である。

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　実習制度には、「母国でやっていた仕事を日本で実習し、帰国後は復職して学んだ技能を生かす」というルールがある。日本の縫製業者で実習したディエプさんであれば、来日前にベトナムで縫製業の経験が必要だ。しかし、そんな経験は彼女にはなかった。

　そこで実習生の送り出し業者が職歴をでっち上げて履歴書を準備した。何も彼女に限った話ではない。業者の間では、当たり前のように横行している実態だ。

　もちろん、「経歴詐称」はほめられたことではない。しかし、ディエプさんはもちろん、業者を責めることも酷かもしれない。日本側の制度が、詐称を強いているのである。

　日本が実習生を受け入れるのは、低賃金・重労働を担う外国人を欲してのことだ。だが、そんな本音は隠し、あくまで「実習」だと言い張る。その一環で「前職要件」のような形骸化したルールが維持され続けている。

　結果、実習生は経歴を偽らざるを得なくなる。そして日本側も詐称を承知で、実習生を受け入れる。問題にすれば、実習生の数が確保できなくなるからだ。

　実習生は昨年6月末時点で約35万人に上る。うち20万人以上がベトナム人だ。そのベトナム人に限らず、経歴を偽っていない実習生など少数に違いない。

■「大卒」を「高卒」に書き換え

　ディエプさんの場合は、職歴のみならず学歴までも偽っていた。彼女はベトナムで大学を出ている。その学歴を隠し、実習生として来日していたのだ。

　実習生には「大卒」不可の規定はない。しかし送り出し業者の間では、実習生を採用する日本の企業などは「高学歴の人材を嫌う」との見方が定着している。業者としては人材を採用してもらわなければ商売にならず、売り込みに必死だ。そこで「大卒」の実習希望者がいれば、学歴を「高卒」に書き換えてしまう。

　こうした学歴の詐称も、留学ビザを取得する際のネックとなる。ディエプさんが言う。

「私のような元実習生でも入学できる日本語学校はなかなかありません。でも、ネットで検索していると、『元実習生でも留学ビザが取れる』という学校が見つかったのです」

　その日本語学校に彼女は入学することになった。そして中途退学を申し出た際、就職すれば「賠償金」300万円を請求する、と告げられる。実習生に対して日本側が強いる意味のない規定すらなければ、彼女は同校には留学していなかっただろう。そう考えると、「300万円請求」問題は、欺瞞だらけの実習制度が生んだ不幸だとも言える。 （出井康博／ジャーナリスト）