クーデターに反対するデモ隊のほうへ向かっていくミャンマー国軍(3月3日、ヤンゴン)Photo by Aung Kyaw Htet/SOPA Images/LightRocket via Getty Images
ミャンマー兵の妻でありながら秘密裏に反クーデター活動を支援する女性が、名前と居場所を明かさないことを条件に米紙の取材に応じ、国軍内の洗脳の実態やいじめ体質、妻たちの上下関係などを赤裸々に語った。
【画像】国軍とデモ隊の狭間で揺れる“ミャンマー兵の妻”が激白 「秘密工作」で命を狙われても
「従順な妻」という衣を脱ぎ捨てて
2021年2月、ミャンマー国軍がクーデターの末に権力を掌握したとき、メイ(仮名、32)はすぐに抗議運動に参加した。 メイの活動には、他の市民とはまた異なる危険が伴う。彼女の夫は国軍の兵士だからだ。夫は、妻が国軍に対する抗議運動を陰で支えている事実を知らない。 クーデター以来、メイが続けてきた秘密の活動と、兵士の妻に求められる従順な役割からの離脱は、彼女を対立する二つの世界の境界線上に置くことになった。 一方は、ミャンマー国民の大部分を占める、クーデターに抗議する人々の世界。そしてもう一方は、洗脳と絶え間ないプロパガンダによって形成され、市民から孤立して幻想の中で生きている国軍の世界だ。 他の兵士の妻たちは、メイに用心するようにと警告してきたという。抗議活動に参加していることが公になれば、メイの夫のキャリアはもちろん、夫妻の命も危険にさらされるからだ。 地元ニュースサイト「ミャンマー・ナウ」によれば、国軍記念日の3月27日には、反クーデター抗議デモに参加した人々が少なくとも114人殺害された。犠牲者の中には子供たちも含まれていた。 駐ミャンマー米国大使のトーマス・ヴァイダは、この日の虐殺を「非武装の一般市民を多数殺害したおぞましい行為だ」と非難した。
軍人の家族は怖くて声を上げられない
メイは、ほとんどの兵士の妻は、国軍が正しいことをしていると信じていると話す。たとえ国軍に反対していたとしても、とても恐ろしくて声を上げることなどできないだろうとも。ちなみにメイの夫は、これまでのところデモ隊鎮圧の任務には携わっていないという。 「真実を伝えようという軍人の家族はいないに等しいでしょう。どんな目に遭わされるかわかりませんから」とメイは言う。 メイはこれまで、携帯電話と不安定なWi-Fi回線を頼りに街中での抗議運動を記録したり、ストライキ中の労働者に資金を提供したりしてきた。 抗議運動への関与を強めるなかで、メイは、国軍によるデモ隊銃撃命令に従わない警察官も支援するようになった。軍に抵抗する警官に資金を送り、彼らが組織から逃れた場合に家族で身を隠すことができるセーフハウスも準備した。
クーデターを覆すには国軍の内部分裂しかない
現軍事政権は、アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝した2020年11月の総選挙で大規模な不正投票があったと主張してクーデターを正当化しようとしているが、国民は納得していない。 ミャンマー語で「タトマダウ」と呼ばれる国軍は、デモ活動に繰り出す市民の怒りを鎮圧できないままだ。その一方、国際社会からもクーデターを撤回せよという圧力が高まるが、国軍がこれに応じる気配はない。 豪グリフィス大学で独裁政権に関する研究を行い、ミャンマー政治にも詳しいリー・モルゲンベッサーはこう指摘する。 「デモ活動はいまだ国軍に打撃を与えるに足るだけの規模に達していませんし、これからも達しないでしょう。大義のもとに活動を持続していけるほどの数に達していないのです」 「つまり、クーデターを覆すためには、世界の独裁政権の中でも最も団結力が強い軍と言われるタトマダウ内部から分裂が起きる必要があるということです」
国軍幹部の贅沢な暮らし
3月27日の国軍記念日、戦闘機が上空を飛び交うなか、ミャンマー国軍は華々しい軍事パレードを行った。分断された国を一つにまとめられるのは我々軍部だけだと誇示するかのように。 国軍のリーダーたちは、ミャンマーの政界と経済界に深く入り込んでいる。クーデター以前の文民政権の下でも議席の4分の1は軍によって占められていた。 国軍はまた、腐敗の沼にどっぷりつかっているほか、数十年の長きにわたり拷問や放火、レイプなど数々の残虐な人権侵害に手を染めてきた。なかでも重大な罪とされるのが、2017年にイスラム教徒の少数民族ロヒンギャに対して行われた大虐殺だ。 今回のクーデターを受けて、アメリカとイギリスは3月末、ミャンマー国軍が管理するコングロマリット2社に制裁を科した。 しかし、いまだ国内では国軍が何のおとがめもなく活動している。とくに高官たちは富を蓄え、ミャンマー最大の都市ヤンゴンの広い邸宅で暮らし、その家族も自分たちの贅沢な生活をソーシャルメディアでひけらかしている。 国軍は外国勢力がミャンマーを分断・征服しようとしていると主張しながらも、高官の多くは子供を留学させ、高度な医療が必要になればシンガポールへと出かけていく。 一方、下級兵士の暮らしはそれとはかけ離れたものだ。各地に長期間派遣され、たとえ最前線から帰還できたとしても、生活環境は厳しい。
妻たちの権力争いといじめ
近年、メイの夫はミャンマー北東部に赴任していたが、彼女が暮らしていた軍の施設にはインターネットはおろか、電気も水道もなかったという。 「この現代においても、軍は兵士たちの基本的なニーズにさえ応えようとしないのです」 高官たちは、部下に対して「一切の同情もない」とメイは言う。 あるとき、長い遠征から負傷して帰ってきたばかりの兵士らが、まず上官の兵舎を掃除するように命令されたことがあったという。メイは、兵士たちが傷ついた足を引きずりながら命令を遂行しようとする姿を見守った。 「彼らは、ほとんど歩くこともできなかったのに……」とメイは振り返る。 軍人の妻の生活は、いろいろな意味で夫のそれとよく似ている。下級兵士の妻は、上官の妻からさまざまな雑用を命じられ、さらに服装など日常のごく些細なことまで指図を受けるようになる。 「夫の昇進のことしか考えていない、おべっか使いの人が多いですね。そうでなければ、自分が正しいと思い込んでいることを、ただ実行している人でしょうか」とメイは言う。 下級将校の妻の中には、上官の妻に賄賂を渡して、夫の部隊を最前線から早く引き上げてもらうよう依頼する者もいたという。
強固な内輪社会で洗脳が進む
そしてミャンマーでは、多くの兵士の妻が、夫の月数百ドルというわずかな収入を補うために、基地の外で小さな商売を営んでいる。 シンガポール国立大学でミャンマー国軍のビジネスについて研究する博士研究員のジェラード・マッカーシーは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて国軍は、自国経済が破綻するなかである種の自立ができるように、妻たちのこうした商売を推進していたと話す。 その結果、民間との交流がある程度進んだ側面もあるが、それでも軍人だけが利用できる独自の銀行や病院を持つ国軍の実態は偏狭なままだ。しばしば軍人の家族同士で結婚を繰り返し、内輪社会をより強固なものにしている。 メイや他の妻たちは2015年の総選挙後、国軍は誰がどの政党に投票したかを監視していると、ある将軍から告げられたという。アウンサンスーチーや彼女が率いるNLDの支持者に恐怖とパラノイアを植え付ける策だ。 「国軍のプロパガンダが成功しているのは、軍隊が外界から隔絶されているからです」とメイは言う。「兵士たちは、軍に正義があると思い込み、クーデター後の騒ぎも1年もすれば鎮まると考えています」 反クーデター運動は最近、特に国外の民主主義国で暮らす国軍や軍事政権の家族らを非難することを目的に、オンラインで「社会的制裁」キャンペーンを立ち上げた。 この抗議行動について、詩人で活動家のマウンサウンカはこう指摘する。 「軍人は、家族だけは大切にしますから。家族は彼らのアキレス腱なんです」 メイもこうした活動を支持している。この「革命」は、確実に国軍に対するさらなる厳しい目と怒りを誘発しているのだ、と。 「ミャンマー国軍は、それ自体が変わらなければならないのです」

