「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」

「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」
原状回復等請求事件【第1〜7次訴訟】
判決で総額10億4千万円の賠償を認めるも、
原状回復等請求は棄却
山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 この裁判は、福島第一原発事故により飯舘村津島地区の住民が、ふるさとを奪われ、日常の生活を破壊され、避難を余儀なくされたため、国と東電に対して原状回復と計約258億円の損害賠償を求めた訴訟である。

 訴えを起こした218世帯659名(結審時)は、事故当時津島地区に住む全住民の半分に当たる大規模集団訴訟である。
 7月30日に判決が言い渡されたが、損害賠償の一部は認められたものの、原状回復は認められなかった。原告は控訴することを決めている。

 津島訴訟が他の損害賠償請求訴訟と異なる点は、主要な請求として「原状回復請求」を柱としていることだ。
 「放射線量低下請求」として汚染された土地を可能な限り除染することを求めている。
 具体的には「訴訟では、第一に、本件地域について、国・東電の放射線量低下義務のあることの確認を求め、2020年3月12日までに、放射線量を年間1ミリシーベルトにまで低下させるよう請求している。
」(自由法曹団5月集会報告集原稿より)
 原状回復義務と放射線量の低下義務の確認を求める請求については棄却されたため、原告は控訴をすることとしている。
 その裁判の判決要旨は以下の通り。  

「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」7月30日・「判決要旨」

事件番号 平成27年(ワ)第255号等 原状回復等請求事件
原告 640名
被告 国、東京電力

福島地方裁判所郡山支部 令和3年7月30日午後3時判決言控

裁判体の構成(令和3年2月18日弁論終結時)
 裁判長裁判官佐々木健二、裁判官矢作泰幸、裁判官河合智史
※佐々木健二裁判長が本年4月1日付で異動したため、本日の判決は、本村洋平裁判長が代読した。判決言控時に法檀に着席している裁判官は、裁判長裁判官本村洋平、裁判官吉岡正智、裁判官河合智史である。

1 本件は、福島県双葉郡浪江町津島地区に居住していた原告ら640名が、固と東京電力を被告として、〔1〕(※)国に対しては国家賠償法1条1項に基づき、東京電力に対しては民法709条の不法行為ないし原賠法に基づき、避難慰謝料、被ばく不安慰謝料、原状回復請求が認められない場合のふるさと喪失慰謝料並びに弁護士費用として、原告1人について月額25万円(令和5年4月以降は月額35万円)及び3300万ないし3000万円等の連帯支払を求め【損害賠償請求】
〔2〕(※)不動産所有権、平穏生活権等に基づき、津島地区全域の放射線量を低下させること(給付請求)又は低下させる義務があることの確認(確認請求)を求めた事案【原状回復請求】である。

 当裁判所は、下記2から4のとおり、上記〔1〕(※)
【損害賠償請求】については、国と東京電力のそれぞれの責任を認め、国と東京電力が、連帯して、原告621人については慰謝料150万円及び弁護士費用15万円を、原告13人については、慰謝料120万円及び弁護士費用12万円を支払うべきものと判断し、他方、原告6人については、請求を棄却すべきものと判断した(認容総額は約10億円である。)。

 また、当裁判所は、下記5のとおり、上記〔2〕(※)
【原状回復請求】のうち、津島地区全域の放射線量を低下させることを求める訴え(給付請求)については、訴えが適法と認められる要件(訴訟要件)を満たしておらず、不適法であるから訴えを却下すべきであり、また、津島地区全域の放射線量を低下させる義務があることの確認を求める訴え(確認請求)については、請求権が発生する要件を満たしておらず、請求を棄却すべきものと判断した。

2 被告国の国家賠償責任について

 国の地震調査研究推進本部が平成14年(2002年)7月に公表した長期評価は、三陸沖から房総沖の領域において、約133年に1回の割合でマグニチュード8クラスの地震が発生する可能性があるとした。
 この長期評価は、専門家による複数回の議論を経て取りまとめられたものであったから、相当な信用性を有する知見であった。
 この点、福島第一原発では、平成14年(2002年)2月に公表された津波評価技術に基づいて津波を算出していたが、この算出の基礎となった津波の記録は、過去約400年のものにとどまっていた。
 また、西暦869年に東北地方では貞観津波という巨大津波が発生していたが、その詳細はわかっていなかった。そのため、福島第一原発の敷地を超える津波が発生する可能性は否定できない状況にあった。

 そのため、国は、この長期評価の示す地震による津波の算出を東電に命ずべきであり、そうしていれば、長期評価が公表された平成14年には、東電が後に試算した(平成20年)のと同様に、福島第一原発の敷地高(0.P.+10m)を超える津波(東電試算の津波高はO.P.+15.707mである)が到来する危険性があることを予見することができた。

 これに加えて、福島第一原発は、主要な電源設備が地下や1階に設置されており、津波が敷地を超えて浸水すれば、全ての電源を喪失する危険性を有しており、津波に対して脆弱な施設であった。
 全ての電源が喪失した場合、原子炉を冷やす機能が損なわれ、放射性物質の飛散につながる重大な事故の発生を招来するおそれがあった。
 平成18年に行われ、保安院も参加した溢水勉強会において、福島第一原発が浸水すると電源設備の機能が喪失することが示されたから、国は、平成18年には、津波に対する脆弱性を認識できた。

 原発事故の被害が甚大であり、万が一にも事故が起きないよう安全性を確保する必要があることも考慮すると、経済産業大臣が、電気事業法40条に定めた技術基準適合命令により、津波に対する安全性を確保するための規制権限を行使しなかったのは著しく合理性を欠き、国家賠償法上違法である。
 そして、国が規制権限を行使し、敷地を超えて浸水する津波への対策を命じていれば、東京電力は、電源車などの可搬式の電源設備を備えたり、安全上重要な機器が設置された部屋に水密扉を設置するなどといった水密化対策を急いで講じたはずである。
 したがって、規制権限を行使していれば、本件事故までにこれらの対策が講じられたと認められ、これにより津波の影響は相当程度軽減されたはずであるから、本件事故は回避できたものと認められる。
 したがって、国には、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任がある。

3 被告東京電力の責任

 東京電力は、原賠法に基づく損害賠償義務を負う。民法709条の不法行為責任とは、特別法一般法の関係にあり、民法の規定による損害賠償を求めることはできない。

4 原告らに生じた損害

 原告らは突然の原子力発電所事故により生活の本拠としていた津島地区からの避難を余儀なくされ、ふるさと津島で長年築き上げてきた人と人との結びつき、豊かな自然や文化から切り離され、コミュニティーを喪失したこと、日常生活では経験することのない被ばくがあったことへの不安が生じていること、長期間にわたり帰還困難区域に指定されたことにより、損害の算定に当たっては、社会通念上は帰還が困難になったと評価されることなどからすると、本件当時津島地区に生活の本拠があった原告の慰謝料は、東京電力からこれまでに支払われた慰謝料額では不十分である。
 国と東京電力は、連帯して、原告621人については慰謝料150万円及び弁護士費用15万円を、原告13人については、慰謝料120万円及び弁護士費用12万円を、支払うべきである。
 他方、本件当時津島地区に生活の本拠があったとは認められない原告6人については、既に支払われた慰謝料額を超える精神的損害が発生したとは認められないから、請求を棄却するべきである。

5 原状回復精求について

 津島地区全域の放射線量を低下させることを求める訴え(給付請求)については、こうした訴えの適法要件(訴訟要件)である、被告らがなすべき作為義務が特定されているとはいえず、不適法な訴えであるから、却下すべきである。
 津島地区全域の放射線量を低下させる義務があることの確認を求める訴え(確認請求)については、原告らが主張する、入会的な権利、不法行為に基づく権利に基づく請求権は、妨害排除請求権等(放射性物質の除去等を求める請求権)が発生することを認め得る権利であるとはいえない。
 また、原告らが主張する、原告個々人の土地所有権及び人格権に基づく請求は、妨害排除請求権等が発生することを認め得る権利ではあるものの、そうした個々人の権利から、それぞれの所有地や居住地の範囲にとどまらず、津島地区全域の放射性物質の除去等を求めることはできない。
 そして、所有地や居住地の範囲について検討しても、国や東京電力が放射性物質を現在支配管理しているとは認められないから、請求を認める要件を満たしていない。

補足:「判決要旨」は、津島原発訴訟弁護団のホームページに掲載されていたPDFファイルを、筆者がOCR処理してテキスト化したものです。もし、誤字脱字があれば、それは筆者の責任ですのでご了承ください。

津島原発訴訟弁護団のホームページは以下の通り
http://www.tsushima-genben.com/

 なお、東電交渉・院内集会が予定されているそうです。
 次の告知をご覧下さい。
 なお、詳しくは上記ホームページを参照してください。

 東電交渉・院内集会のお知らせ
                 2021年8月2日
 7月30日に福島地方裁判所郡山支部によって下された国・東電の責任を断罪する判決をもとに,8月11日,東電に対し,真摯な謝罪や原状回復へ向けた措置などを求める交渉を行います。
 また,判決と東電交渉の報告を行う院内集会も行います。

カテゴリー: その他 パーマリンク