非正規の客室乗務員、解雇のどん底からマンション清掃で生きがいを見つけるまで
コロナ禍で、女性の自殺率が上がっていることがニュースになっている。2020年の女性の自殺者数が前年より15%も増え、非正規雇用の拡大が一因とも言われている。今回お話を伺う美優さん(仮名・38歳)は、非正規の客室乗務員で、コロナ禍で自殺寸前まで追い込まれた。しかし、現在は清掃員として働いている。その経験を語っていただいた。
客室業務員はツブシが効かない職業だと思った
「独身でアラフォー、非正規の客室乗務員という、全くツブシの効かない職業スキル。飛行機に乗ることありきのスキルなので、陸上では役に立たないと思いました。それに、私にはプライドがあったし、親に迷惑をかけたくないという気持ちも強かった。そこで孤独に追い込まれ、貯金が底をついた2020年年末に、気づけばカーテンレールにひもをかけていました」と当時を振り返る。 そこまで追い詰められたのは、孤独と経済困窮。 「幼い頃から客室乗務員になりたくて、両親が小柄なので頑張って牛乳を飲み続たからか、160cmになりました(笑)。経済的にも無理して短大に進学。1年生の時から、就職雑誌を読んで研究して、マナー教室に通ったけれど、国内エアラインの就活は至難の業。全滅しました。 外資系の航空会社ならいけるかもと思って受けましたがまたも不合格。その後、語学系の専門学校に入りなおし、英語をがんばって、25歳のときにやっとある外資系航空会社に合格。それ以来、その会社で12年間、客室乗務員として仕事をしていました。制服もかわいいし、誇りを持って仕事もできたし、毎日が夢のように楽しかったです」 しかし、給料は低かった。それは、現地の給料基準で支払われるからだという。 「どれだけ働いても、非正規雇用ですからね。もちろん、日本の航空会社に入りたい気持ちはありましたが、“それでもいい”と割り切っていました」
基本給は10万円未満、給料は時給制

厳しい訓練を受けて、初めて搭乗した25歳の日が人生最良の日で、幸せは搭乗のたびに増していったという。
給料は基本給が10万円以下で、フライトタイム(搭乗し実務に就いている時間)で上乗せされる時給制。仕事をしないと給料が20万円に届かないこともあり、必死になって仕事を入れる。その結果、友達と遊ぶ時間はなく、男性との出会いもなくなる。同世代が次々と結婚する中、家賃4万5千円の極小ワンルームに住み続けていた。そこにコロナ禍が襲ってきた。 「基本給が4カ月間は支払われたので、家賃は払えたし、貯金もあったので、2020年9月までは何とかなりました。あの時に、“もう搭乗の機会はしばらくない”と見切っていたらよかったんですけれど、その仕事にしがみついてしまったんです。ネットで“新型コロナの特効薬ができるから、11月にはおさまる”なんて噂もあり、祈るような気持でその日を待っていました」 しかし、その日は来なかった。10月にはとうとう解雇。それでもステイホームが叫ばれており、「ルールを守らなければ」とずっと家にいたという。それが孤独を増長し、死へと静かに向かって行ったのではないかと当時を振り返る。 「私は真面目というか、融通がきかないというか、“ステイホームをしていないと、社会的にダメだ”と思っていたんです。これは客室乗務員以外の仕事をしたくないという言い訳でもあったかもしれません」 友達も真面目な人が多く、みなしっかりとステイホームをしていたという。 「SNSでつながっている友達は、小さな子供を抱えたり、軽めのモラハラのダンナがいるのに、頑張ってステイホームをしていました。私なんて独身で、彼女たちから比べればラクなはずなのだから、より一層我慢しなくてはいけないと思っていました」 追い詰められると、他人と自分を比べて、「私なんてダメだ」と思ってしまうという。 「この思考が死へと追い詰めていったんだと思います。医療従事者の人に比べて、自分はなんて無力なんだ、生きている価値がないのかな、と思ってしまいました。2020年の年末ごろは、そう思い詰めてしまった人も多かったんじゃないかな」 解雇されたとはいえ、会社側からはコロナ禍がおさまったら優先的に再雇用するという説明もあった。他業種に就職してしまえば、再び客室乗務員になるのは難しいので、就職活動を先延ばしにしていた。収入はないのに家賃は引き落とされ続け、マスクや消毒液などの出費はかさむ一方。 「貯金残高が6万円になったのを見たときにショックを受けたんですよね。そこからの記憶がなくて、気が付けばカーテンレールにひもをかけて、ゴミ箱を踏み台にして、そこで死のうとしていたんです」 そのときに、耳元で「パン!」という大きな音がして、ハッと我に返ったという。 「本当に記憶がないんです。パンという何かの発砲音のようなものがして我に返りました。その後、何の気なしにスマホを見ると、専門学校時代の元カレから“元気?”とLINEが入っていました」 元カレに思いのたけをぶちまけて、別業種への転職に踏み切ることになった…
今回お話を伺う美優さん(仮名・38歳)は、非正規として客室乗務員で働いており、コロナ禍に自殺寸前まで追い込まれてしまったという。
「独身でアラフォー、非正規の客室乗務員という、全くツブシの効かない職業スキル。貯金が底をついた2020年年末に、気づけばカーテンレールにひもをかけていました」と当時を振り返る。
元カレは離婚したばかり、手軽に“ワンチャン”するために連絡をしてきた
元カレのLINEが奇跡的だったが、まさに命の恩人…というわけではなかった。
「元カレに電話をすると、開口一番“今、家に行っていい?”って。結婚しているはずなのに、なぜ10年ぶりに私に連絡をしてきたのかと聞くと、“ヤりたいから”って(笑)。離婚したばかりで元カノに片っ端からLINEして、反応あった人からヤっていると聞き、なぜかバカバカしくなって、思いのたけをぶちまけてしあまいました」
すると、元カレは「バカじゃね? 仕事なんてなんでもいいじゃん。俺なんのプライドもないよ」と言いきった。
「人に話すって大切なんだと思いました。それで気持ちを切り替えて、厳しいことを書いていない求人を見て、応募しました。電話して、“すぐに来てください”と言ってくれたのが、今仕事をしている清掃の会社です。とにかく人手不足で大変だと言うのですぐ行くと、その場で簡単な面接を受け、研修を受けて翌日から現場へ出ることになったのです。あの時、落とされていたらまた落ち込んでいたと思う」
その仕事は都心のマンションに朝7時に行き、住民用のゴミ置き場からゴミを収集所に出す仕事だった。
「24時間ゴミを出せる高級マンションで、住民は70世帯。あふれんばかりにゴミが出されていて、それをひたすら集積所まで持って行きます。10メートル程度の通路の往復なのですが、ゴミ袋の量がすごかった。ステイホームで家にいるからなんでしょうね。ゴミの山と日々格闘していたら、気づけば客室乗務員というプライドがなくなっていました。ステイホームで体力が落ちている中の肉体労働は過酷でしたが、これを運ばなくては、住民の人が大変な思いをすると思って、頑張りました」
全身筋肉痛でズタボロになったけれど、翌日も別の現場がある。
「私にはできません、と言おうと思いましたが、私が抜ければ誰かが大変な思いをするので行きました。それに、採用の時に恥を忍んで“お金がないんです”と言ったら、あっさりと“週払いにするよ”と言ってくれたのです。お金のためには辞めるわけにはいかないですから。それで頑張って土日も働いて、できるだけ仕事を入れてもらったら、7万円が振り込まれたんです」
客室乗務員時代よりも、収入が増えた!
