内戦続くミャンマーは国際社会から見捨てられたのか 沖縄から立てる三本指

内戦続くミャンマーは国際社会から見捨てられたのか 沖縄から立てる三本指

HUB沖縄

ミャンマー市民への支援を呼び掛けるトゥ・ヤ・ソウさん=3月17日、那覇市安里の在沖縄ミャンマー人会事務所

 ミャンマーでは昨年2月に最大都市・ヤンゴンを発端とした国軍による軍事クーデターが起きて1年以上が経過した今もまだ、民主化を求める多数の市民に自国軍の銃口が向けられている。那覇市の栄町市場内でミャンマー料理店「ロイヤルミャンマー」を営み、母国ミャンマーでは小学校を運営するトゥ・ヤ・ソウさん(39)は誕生日である2月5日に、Facebook上に自身のキャッシュカードの写真を載せ、こう投稿した。

「私の誕生日に何かプレゼントしたいと思ってくれている人は、100円でも良いのでミャンマー市民のためにここに振り込んでくれると大変ありがたいです。変なことを言っているかもしれませんが、私にとってはミャンマーが平和になることが一番なんです」

 国際社会の記憶の片隅に追いやられた母国の人々を思っての嘆願だった。

ニュースにならない祖国の悲劇

 ソウさんは、おもむろにスマホの画面を見せた。奇しくもロシア軍によるウクライナ侵攻が開始された翌日、2月25日のミャンマーのある町を映したSNS上の動画だ。家屋は残らず燃えつくされ、投稿した女性は「私には帰る家すらない」とビルマ語で訴えていた。

 画面を見ながらソウさんは「全然ニュースになってないですよね」とつぶやく。「世界の目がウクライナに向いている隙に、国軍の攻撃は悪化しています」。ソウさんによると、国軍は市民に恐怖心を植え付け、抵抗運動を押さえつけるという目的もあって町ごと破壊しているという。

 国際社会は、今ウクライナに向けているまなざしを、同じ「戦争状態」であるミャンマーを含めアフガニスタンやイエメンなどの国々に向けてきただろうか。

 ソウさんはこう問いかける。「内戦だから放っておいていいと思っているのでしょうか?」。さらに「ウクライナの市民もとても大変な状態で比べられることではありませんが」と前置きした上で「内戦の場合は『その国の問題』と見られることがあり、他国からの支援が集まりにくいです」と説明する。市民が軍に対して諦めることなく抵抗運動を続けているため、支援無しでは泥沼の長期戦が続いてしまう懸念もある。

「やっぱり貧しくて力のない国だからでしょうか」

 3月18日に沖縄県はウクライナ避難民の受け入れに向けた支援本部の設置を発表し、人道支援の手を他府県に先駆けて差し伸べている。しかしミャンマーの避難民に対する支援の姿勢は、沖縄県をはじめ全国的にもほとんどない状況だ。「これまでも県内のマスコミに何度も取り上げてもらいましたけど、県からは特に何もアクションがありません。やっぱり貧しくて力のない国だからでしょうか。ミャンマーとは大違いだなぁと思って(ウクライナ支援関連の報道を)見ていました」

 それでも嬉しい動きはあった。昨年6月に糸満市議会が首相らに宛てて、ミャンマーでの軍事クーデターを非難し民主体制を求める意見書を全会一致で可決したことだ。3月21日に那覇市内での反戦イベントでソウさんは「頑張れ、チバリヨ―と現地の人々に応援の気持ちを届けないといけません。そんな声が届かなければかなり落ち込んでしまいます」とスピーチしていた。沖縄から寄り添う気持ちがあるだけでもミャンマー市民の力に変わる。

「中立」を叫ぶことの無責任さ

 軍事クーデターで政権を掌握した現行のミャンマー政府に対し、日本政府は強い姿勢で臨んでいないという批判がある。ソウさんはそんな“中立的”な日本政府に疑問を呈し「中立は逃げ道と同じです」と強調する。「どっちにも転べるようにして、いつでも言い訳ができます。そもそも軍事政権という考え方自体が、自由や人権を重んじる日本にそぐわないと思います」と、民主回復運動への支援を訴える。

 「そもそも、ミャンマー市民は何も悪いことをしていないのに一方的に殺されています。そんな中で“中立”の人は市民に対して『国軍の要求も一部飲め』と言えるんですか?ヤクザの世界ですよ」

 国際社会が能動的に世界平和を希求することの大切さに触れながらソウさんは「昨年はミャンマー、今年はロシア。世界は戦争を回避できませんでした。何のために国連があるのでしょうか。この調子では、来年は台湾に何も起こらないと誰が言い切れるでしょうか」と、世界を巻き込む戦火の拡大を心配している。

「命どぅ宝」をミャンマーにも

 ソウさんのお店「ロイヤルミャンマー」から歩いて1分ほど、同じく栄町市場内に、自身が事務局長を務める「在沖縄ミャンマー人会」の事務所がある。中では約80枚の写真やパネルが展示されている。燃える街、亡くなる前には笑顔だった女性、デモを行う市民たち。軒先ではミャンマーへの支援を訴えるメッセージTシャツやエコバックなどを販売しており、収益はミャンマーの人々へと寄付される。

 ソウさんは「ミャンマーの人々は『何をされても抵抗をやめない』という覚悟です。負ける気はしません」と力強く語る。今では国軍側にいた人々が市民側に鞍替えする例も増えているという。

 事務所での取材中、ジャリンジャリンと音が鳴った。軒先の募金箱に、通りすがった女性が財布をひっくり返してありったけの小銭を入れていった。沖縄から届ける支援の輪。事務所内の目立つ場所には、別の人が残していったこんなメッセージが貼られてあった。「『命どぅ宝』という沖縄の言葉。ミャンマーでも同じ」。抵抗運動のシンボルである3本指を、ミャンマーの人々と共に立て続けたい。

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