初めてＣＤを発表した齋藤悌子さん＝７月２９日、石垣市の「すけあくろ」

　米軍統治下の沖縄で活躍したジャズシンガーの齋藤（旧姓・平良）悌子（ていこ）さん（86）が、活動開始から68年の時を経て初のCDを発表した。

　那覇高校卒業後、ジャズバンドの一員として県内の米軍基地で約10年間にわたり歌声を披露。その後はバンドリーダーで夫の勝さんの出身地、千葉県のステージに立ち、現在は移住して約30年になる石垣島で歌い続ける。

　島のジャズ仲間らの尽力でCD化が実現。86歳の歌姫は「この年齢では想像もできなかったこと。最高の喜び」と多くの支えに感謝した。（八重山支局・粟国祥輔）

　宮古島市出身で、中学校2年の時に家族で那覇市に引っ越した。沖縄キリスト教短期大学元学長の平良修牧師は兄に当たる。

　小さな頃から歌うことが好きで、那覇高に入学してからはクラシック音楽に夢中になり、よく独唱を披露していた。担任の先生も音楽の道に進んだらどうか、と背中を押してくれた。

　当時はジャズバンドの全盛期で、国内外の演奏家たちが米軍基地の客を求めて沖縄に集まっていた。このうち勝さんが率いるバンドの歌手募集に手を挙げたことが転機となった。

　英語の発音がネックだったが、親しくなった米軍機関紙の記者が一つ一つ丁寧に教えてくれた。「とても恵まれていたと思う」。研さんを重ね、10年間の長期にわたり歌い続けた。

　千葉では出産、子育てを経て活動を再開。ホテルやナイトクラブでマイクを握った。50代後半になると、勝さんが望んでいた石垣に移住。娘が島の男性と結婚したことも後押しした。

　しかし、勝さんがわずか5年で病気により他界。「音楽を聴くと思い出して涙が出る」と、歌えない日が10年間続いた。再び歌い出したのは、音楽仲間との出会いがきっかけ。行きつけの喫茶店で知り合った方々とウクレレを習い始め、歌への意欲も取り戻した。 　CDはジャズクラブ「すけあくろ」が第1弾作品として製作した。齋藤さんの歌声が収録されていないことを聞いて、店主の今村光男さん（66）が取り組んだ。プロの演奏家をそろえ、中でもピアノ伴奏はかつてニューヨークで活躍したデヴィッド・マシューズさん（80）が務めた。

　3月に同クラブで行った録音では、齋藤さんが選曲した「テネシーワルツ」など往年の名曲5作を、巧みな伴奏に乗って1回で歌い上げた。緊張せず安心して歌えたと振り返り、「私にとって最初で最後のCD。思い出が詰まった5曲を多くの人に届けたい」とちゃめっ気たっぷりに笑った。

　価格は2500円。問い合わせはすけあくろ、電話0980（87）7697。