「ミャンマー軍政承認?」国葬招待は国際社会への誤ったメッセージに
軍政下のミャンマーで反政府デモの取材中に映像ジャーナリスト、長井健司さん(当時50歳)が治安部隊に射殺されて27日で15年。同じ27日にある安倍晋三元首相の国葬を外務省はミャンマーに通知したが、民主化を求める在日ミャンマー人は「軍政側は来賓として出席させないで」と訴える。日本はミャンマーにどう向き合うべきなのか。約40年ビルマ(ミャンマー)を研究し、近現代史に詳しい上智大の根本敬教授に聞いた。
――岸田文雄首相は「人権外交」を重視する方針を打ち出している。未解決の長井さん射殺の真相究明についてどうすべきか?
◆引き続き射殺の責任をミャンマーに問うべきだ。現在拘束中のドキュメンタリー制作者・久保田徹さんの早期解放と共に、長井さんのビデオカメラなど遺品の返還も強く求め続けるべきだ。日本政府は形式的に返還を求め続けていたが、民政移管の2011年の後もミャンマー国軍の意向がまかり通り、進展は全くなかった。これをしないと「人権外交」は意味をなさない。クーデターへの対抗措置としてODA(政府開発援助)を全面「中断」すべきだ。それらの「行動」が伴わない限り、G7(主要7カ国)としてクーデターに対する非難声明を出し続けても、国軍のミンアウンフライン最高司令官は聞く耳を持たないだろう。標的と目的を明確にした「制裁」が求められる。
――外務省は安倍晋三元首相の国葬について国交のある国などに通知した。
◆葬儀の案内で形式上は「通知」だが、実質的には「招待」だ。1989年4月の昭和天皇の大喪の礼の際は、88年9月に起きた軍事クーデターで成立したビルマの軍事政権から代表を招待しようと当時の日本政府が考え、89年2月に軍事政権を承認した。ビルマ軍政から文民の大臣が参列した。この前例に基づけば、今回も国葬の案内の通知相手は日本が承認、または今後承認する見込みの国家・政府となる。
現在のミャンマーと外交関係を結んでいる各国は、在住する国民保護の必要などから黙認的に現クーデター政権と付き合っているが、政府としての承認は控えたままだ。そんな中で、国葬の通知をした日本は一挙にクーデター政権を「政府承認」しかねないとの懸念を、在日ミャンマー人に与えてしまっている。
――ミャンマー国軍側を来賓として国葬に招く問題点は?
◆「政府承認」していないクーデター政権にだけ国葬の通知を出し、一方で民主派勢力のNUG(国民統一政府)には出さないというのは不適切だ。クーデター政権側の要人は文官であっても受け入れてはならないと考える。日本がクーデター政権の承認に向かうかもしれないという間違った政治メッセージを国際社会に送ることになりかねないからだ。【鶴見泰寿】