与那国語（ドゥナンムヌイ）を流暢に話せる人は、いまや100人ほどしかいない　Photo by Carl Court / Getty Images

沖縄県与那国島で話されている「ドゥナンムヌイ」こと与那国語は、英語とドイツ語が違う言語であるように、日本語とは明確に異なる言語だと言われている。しかし、与那国語を話す人は現在、わずか数百人しか残っていない。英誌「エコノミスト」が、この言語の厳しい現状を取材した。

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サンゴ礁に囲まれた日本の最西端、与那国島。池間龍一は、自身の母がこの地に建てた博物館、与那国民族資料館に立っていた。 大きな土器、手の込んだ籠、花柄の豪華な織物が陳列棚を埋め尽くしている。ある棚には、ボロボロになった本が飾られている。「ドゥナン（渡難）」として知られる地元の言語を保存するため、池間の母親が作った辞書だ。 池間本人も、この言語をいまなお話すことができる人間の一人だ。しかし、その数は減りつつある。

激動の歴史を生き延びてきた言語

与那国語は、琉球諸語と呼ばれる、琉球諸島で話される6つの言語のうちのひとつだ。

沖縄を含む琉球諸島は、九州から台湾付近まで細く分布しており、かつては独立した王国だった。

こうした地政学的に不安定な位置にあったために、琉球諸島は近隣の大国の戦場になってきた。その犠牲となったもののひとつに、この琉球諸語がある。

琉球諸語と日本語は同じ語族に属してはいるものの、言語学者らによれば、その共通点はせいぜい、英語とドイツ語の共通点と同じ程度のものであると考えられている。

しかし、1870年代に日本が沖縄を併合すると、日本は、琉球諸語は日本語の方言に過ぎないと宣言した。学校では使用を禁止され、話すのをやめなかった生徒たちは、首に侮辱的なプラカードをかけさせられた。

琉球の人々は、家の中で自分たちの言語を話し続けた。そして第二次世界大戦後、アメリカが沖縄を占領すると、アメリカは島民と内地を引き離すため、琉球諸語への回帰を推奨した。しかしこれにより、琉球諸語と米軍による占領という評判の悪い政策が結びついてしまった。アメリカはおそらく、この言語が廃れるのを早めたのだ。

「日本語を話すことは、琉球の人たちをアメリカ人から解放する手段になりました」。日本で危機的な状況にある言語を研究していたこともある、ヴェネツィア・カフォスカリ大学のパトリック・ハインリッヒはそう話す。

「ドゥナンはいずれ消えてしまうでしょう」

何十年も使われなかった琉球諸語は大打撃を受けた。2009年、ユネスコはこの6つの言語を「危険な」あるいは「重大な」消滅の危機にある言語に認定した。

以来、琉球諸語の保護活動家たちは、この言語を復活させる取り組みをおこない、特に沖縄で成果をあげてきた。 しかし、琉球諸語はいまだ危機的な状況にある。

また、日本がいまだにこれらの言語をそれぞれ独立した言語として認めるのに消極的であることが、活動家たちの足を引っ張っている。

ハインリッヒによれば、琉球諸語を独立した言語として認めるためには、どのくらい前に、またどのような状況で琉球諸島が日本の一部になったのかをきちんと認める必要があるという。「歴史に立ち返らなければなりません」と彼は言う。

ドゥナンはおそらく、最も消滅の危機に瀕する言語だ。流暢に話せる人はたった100人ほどしかいない。こうした状況を鑑みて、与那国町は学校でドゥナンのコースを選択できるようにした。

教育委員会の村松稔は本州出身だが、この島の言葉を学び、新しいドゥナンの辞書を作る取り組みを主導している。 ドゥナンには、この危機を要約するこんな言い回しがある。「言葉を忘れることは、島を忘れることだ。島を忘れることは、両親を忘れることだ」 しかし、そんなささやかなやり方でドゥナンを救うのは難しいだろう。池間は楽観的ではない。「ドゥナンはいずれ消えてしまうでしょう」と彼は言う。