欅坂46も立憲民主党議員も…「ナチスをもてあそぶ日本人」にドイツ人がドン引きする理由

ドイツで「ヒトラーを褒めたら」どうなるのか ©Getty
先月、ハーケンクロイツを掲げ、ナチスの軍服を着たホストが接客する大阪のホストクラブが話題になりました。現代の国際感覚とあまりにもズレた事件のため、日本だけでなくポーランドや海外のメディアもこの問題を取り上げました。
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また、先月15日には立憲民主党の衆議院議員である桜井周氏の演説会で、会場にいた支持者たちが「右手を胸元から右斜め上へと一斉に突き上げた」ことが問題視されました。アドルフ・ヒトラーを称える「ナチス式敬礼」に似ていると批判が相次ぎ、桜井氏は最終的に「集会における不適切な行動があった」として謝罪しています。
4カ月前の7月には東京オリンピック開会式・閉会式のショーディレクターを務める小林賢太郎氏のお笑いコンビ「ラーメンズ」が、過去にナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)をネタにしたコント動画が拡散。こちらも批判を集め、同氏はショーディレクターを解任されました。
日本では、なぜ「ナチスのモノマネを気軽にしてしまう人」が後を絶たないのでしょうか。
デリカシーのない日本人の発言の数々
筆者はドイツ人の父親と日本人の母親の間に生まれ、ミュンヘンで育ちました。日本に来てから約20年。思い返してみると、来たばかりの頃、「日本とドイツのハーフ」であることを伝えると、よくこうリアクションされたものです。 「日独ですか。日独といえば、日独伊三国同盟ですね!」と。その後、発言者の多くが決まって「わっはっは」と大爆笑するのでした。 「日独伊三国同盟」は筆者ももちろん知っています。しかしなぜ自己紹介の際、それを持ち出すのか不思議でなりませんでした。というのも、ドイツでは「ナチス政権時代に日本・ドイツ・イタリアが同盟を結んでいたことを喜ばしく思うような発言」はタブーだからです。 この発言者の多くは高齢者でした。現在では戦争や同盟のことをあまり知らない人が増えたせいか、同じようなリアクションはだいぶ少なくなりました。
一方で現在は、ドイツ人を前にして「(第二次世界大戦中の)ドイツ人は悪くなかったと思う」と発言する日本人に遭遇することがあります。また、「ドイツ人は、ユダヤ系の人を見ると、やはりドキッとしますか?」などと聞かれることもあります。きっと悪気はないのだろうけど、どちらも不用意な発言だな、と思います。
前者の発言についてはかばっているつもりかもしれませんが、ドイツ人はそう捉えません。また、後者については、「ドイツ人VSユダヤ系」という視点がそもそも問題です。なぜならドイツにはユダヤ系ドイツ人も多くいるからです。目の前のドイツ人がユダヤ系かもしれない事実に対して、無知であることに危うさを感じます。
ドイツで「ヒトラーを褒めたら」どうなる?
ヒトラーは世界を第二次世界大戦へと導き、数百万人のユダヤ人に対する虐殺、いわゆる「ホロコースト」を行いました。ドイツ人にはその事実から目を背けてはいけない、ナチス思想は絶対に擁護してはいけないという共通認識があります。 法律でもそれは厳しく制限されています。ドイツ刑法130条「民衆扇動罪」では、「アウシュヴィッツのユダヤ人大虐殺などなかった」「虐殺されたユダヤ人の数はもっと少なかった」といった類の発言をはじめ、ヒトラーやナチスドイツを礼賛する言動が禁止されており、違反すると禁固刑に処せられる可能性があります。
また、ドイツ・非ドイツ人を問わず、国内でハーケンクロイツを見せたり、ナチス式の敬礼をすることも禁止されています。2017年にはベルリンの連邦議会議事堂前でナチス式敬礼をした中国人観光客2名が現地警察に逮捕されました。
ナチス思想の復活を防ぐため、ドイツの外務省も1月27日の「国際ホロコースト記念日」では犠牲者の追悼をするとともに、「二度とこのような犯罪を起こしてはならない」と発信し続けています。
先月10月18日は「ユダヤ人の絶滅収容所への移送開始」からちょうど80年の節目の日。この日、ドイツのシュタインマイヤー連邦大統領はベルリン・グルーネヴァルト駅で行われた追悼式に出席し、「反ユダヤ主義が我々の社会で再び許容されることは決してあってはならない」と述べました。東京のドイツ大使館も翌日に追悼式の様子をツイートしています。
ナチスドイツの犯罪行為について、日本では「ドイツ人は過去を気にしすぎる」「ナチスを称賛するだけで逮捕されるだなんて、ドイツには言論の自由がないのか」などの意見を聞くこともあります。
前述の小林賢太郎氏の騒動では、ある日本の著名人が「コントの文脈を見ずに解任するのはどうかと思う」などと彼に同情を寄せていたぐらいです。
でも筆者は、この意見には賛同できません。たとえば、広島と長崎の被爆者をネタに外国人がコントをしたら、日本人はどう思うでしょうか? もし13歳で北朝鮮に拉致された横田めぐみさんについて外国人がそれを元に笑い話を創作したら、日本人はどう思うでしょうか? 趣味の悪いジョークとして批難を集めることは必至です。
日本とドイツ、教育の違い
ドイツでは子どもの教育の場でも、ナチスの失敗を学べるよう徹底されています。例えば、『あのころはフリードリヒがいた』はドイツで教育を受けた人なら誰もが知っている本です。 この本は子どもの立場で描かれています。主要登場人物は、ヒトラーが政権を握る前から同じ集合住宅に住んでいたユダヤ人の男の子「フリードリヒ」とドイツ人の「ぼく」。 家族ぐるみの付き合いがあり、互いの家に遊びに行ったり、休みの日に一緒にプールで遊ぶなど子どもらしい日常が綴られています。しかし、そんな日常が少しずつですが、確実に悪化していきます。 仲良くしていたはずの隣人から突然冷たくあしらわれたり、通っていたプールの管理人から「汚いユダヤ人が! 二度とプールに来るな!」などの罵声をあびせられたり。最終的には、集合住宅の管理人のせいで防空壕に入れなかったフリードリヒは、空爆によってその短い命を失います。 本では最初から最後まで一貫して、「普通の市井の人々」があたかも自然の流れかのように加害者になっていく様が描かれてます。筆者も子どもの頃に読みましたが、今も忘れられない一冊です。 日本では戦争の加害者性を見つめるような教育がなされません。小中学校で読まれる本の中には日本人が被害者として描かれた本が多く(もちろんそれも大切な視点ですが)、「日本人よって苦しめられた人々」の話を子どもたちが知ることができる機会が少ないことが気になります。 『あのころはフリードリヒがいた』を読み、学校の授業の一環で街の近くにある強制収容所跡地に出かけるといった教育を受けてきたドイツ人にとって、「ホロコーストをジョークにする」というのはありえないことであり、ナチスドイツによって多大な被害を受けたドイツ近隣諸国の人たちにとっても、それはまたありえないことなのです。
今も「ナチス思想を監視する団体」とは?
前述の小林賢太郎氏のコントが発覚したときも、2016年にアイドルグループ「欅坂46」がライブでナチスの軍服に酷似した衣装を着たときも、アメリカのユダヤ人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)」が即座に謝罪を求めました。後日、両者ともに謝罪しています。 この団体に対して日本の中には、「なぜ過去のことを問題視するのか」「なぜ外国のことまで口出しするのか」といった声があります。そうした意見を持つ人々は、この団体が生まれた背景を知らないにちがいありません。 ホロコースト当時の記録保存や、世界の反ユダヤ主義の監視を行うのが団体の目的です。設立者のサイモン・ヴィーゼンタール氏の活動の原動力はとても悲しいものでした。 戦後に生まれた彼の一人娘・ポーリーンが小学生だった1950年代のこと。学校から帰ってきた彼女は父親のヴィーゼンタールに尋ねました。 「お父さん、同じクラスの子達にはみんな、おじいちゃんやおばあちゃん、おじさんやおばさんがいるのだけれど、どうして私には、親戚がいないの?」 父親はこの質問に答えることができず号泣してしまいます。この娘の言葉をきっかけに、一生をかけて加害者への責任を追及していくことを改めて決断したといいます。
